相続人に認知症の人がいる場合の遺産分割方法は?
相続が起こったら、相続人らが集まって遺産分割協議をする必要がありますが、相続人に程度の重い認知症の人がいる場合には、どのように対処すれば良いのかが問題です。
認知症の人をそのまま入れて遺産分割協議をしたり、認知症の人抜きで遺産分割協議をしたりしても良いのでしょうか?
そこで今回は、相続人の中に認知症がいる場合に成年後見制度によって遺産分割を行う方法について解説します。
1.遺産分割に参加するための「意思能力」とは
相続人の中に認知症の人がいるケースでは、その人を入れて遺産分割協議ができるのかが問題となります。認知症の程度が酷く、遺産分割協議に参加してもらうことが期待できないケースもあるでしょう。
法律上、遺産分割協議に参加するためには「意思能力」が必要です。
意思能力は、最低限の法律行為をするために必要な判断能力のことです。
認知症の人の判断能力が低下していても、最低限遺言を単独で行うことができる程度の意思能力があれば遺産分割協議に参加できます。反対に、それすらなくなっているケースでは、その人は、自分自身で遺産分割協議に参加して有効な意思表示をすることができません。
そこで、相続人に認知症の人が含まれている場合、実際に遺産分割協議ができない、という事態が発生してしまいます。
2.意思能力を欠いた人が参加した遺産分割協議の効果
意思能力を欠いた認知症の人を無理矢理遺産分割協議に参加させて、遺産分割協議書に署名押印だけをさせた場合の遺産分割協議の効力を考えてみましょう。
結果として、遺産分割協議は無効となります。法律上、遺産分割協議には、相続人全員の参加が必要ですが、「全員に意思能力がある」ことが前提です。意思能力を欠いた認知症の人が無理に遺産分割協議に参加しても、有効に意思表示をすることができないので無意味です。
3.認知症の人を外した遺産分割協議は無効
意思能力を欠いた認知症の人を無理矢理遺産分割協議に参加させることができないなら、認知症の人を外して協議をすることはできないのでしょうか?
これについても、答えは「できない」ということになります。
法律上、遺産分割協議には「相続人による全員参加」が必要で、1人でも欠けていたらその協議は無効になります。
そこで、たとえ認知症で意思能力がない相続人でも、その人だけを抜きにして遺産分割協議をすすめることはできません。
4.成年後見制度とは
相続人の中に意思能力を失った、程度の重い認知症の人がいる場合、遺産分割協議を進める方法が問題です。
この場合、利用出来るのが「成年後見制度」です。成年後見制度とは、判断能力の低下のために財産管理ができなくなった人のために、他の人が代わって財産管理や法律行為をする制度のことです。
判断能力の低下の度合いによって、後見と保佐と補助があります。
認知症の程度が酷く、遺産分割協議に参加するだけの意思能力が無い場合には、通常は一番程度の重い「成年後見人(後見人)」をつけることになります。
成年後見人には、法律行為一般についての本人の代理権がありますし、本人が勝手にした行為の取消権もあります。
自分一人では有効に意思表示ができないために遺産分割協議に参加出来ない認知症の人でも、成年後見人がついたら、成年後見人が代わりに遺産分割協議に参加できるので、遺産分割手続きをすすめることができます。
5.成年後見制度の利用方法
成年後見制度を使いたい場合には、家庭裁判所において、成年後見申立てをする必要があります。
この場合、本人の住所地の管轄家庭裁判所宛に、成年後見開始審判申立書という書類と、戸籍謄本や医師の診断書などの必要書類を一緒に提出します。
申立があると、家庭裁判所において、本当に後見が必要かどうかの調査が開始されて、調査の結果後見が必要という判断が下れば、成年後見人が選任されます。
後見人になるべき人については、候補となるものを申立時などに指定できますが、遺産分割協議を目的とする場合、他の相続人が成年後見人になると本人と利益相反してしまいます。そうなると、後に実際に遺産分割協議を行うとき、新たに特別代理人などを選任しないといけなくなります。
そこで、候補者は立てないか、立てるとしても遺産分割協議とは無関係な第三者を立てるようにしましょう。
後見人が選任されたら、本人の財産を全部後見人に預け、その後は後見人が財産管理を行います。
6.後見人選任後の遺産分割方法
認知症の人に無事に後見人がついたら、その人を交えて遺産分割協議をすることができます。後見人には代理権があるので、認知症の人の代理として有効に遺産分割協議をすすめることができますし、このとき本人の参加や同意は不要です。協議をすすめて内容の合意ができたら、遺産分割協議書を作成して、通常通り相続手続をすすめていくことができます。